劇中にも競走馬の名前で言及があるが、小津安二郎のパロディのような映画。ジャームッシュがヴェンダースと親交があることは衆知のとおりで、また、この映画はヴェンダースからあまったフィルムをもらってつくったといわれている。小津安二郎/ヴィム・ヴェンダースとくれば当然、彼の映画はモノクロのロード・ムーヴィーということになる。
基本的に(おそらく全編そうだったと思う)ワンシーン・ワンカットで撮影され、それらの無数の断片は一秒強ほどの黒味でつながれている。このような編集/モンタージュがもたらす断片的な様相を呈すロード・ムーヴィーは、まさにポストモダンを生きる着地場所のない若者の今日的な心境とうまくマッチしているだろうし、その意味では、ジャームッシュにはヴェンダースにあったような挫折感はかけらも感じられない。自分が遅れて生まれたことを後悔するふうでもなく、淡々と「日々」を生きなければならないという空白的な不安がジャームッシュ特有のユーモラスな視点で描かれており、われわれ若い世代の人間は、そのユーモアをほとんど自虐的な意味で笑うほかない。というよりむしろ、ユーモアとは自らを笑うことであり、本来的に自虐である。
ユーモアとは、一度は超越論的な視点を通過することでもたらされるものだが、その視点の高さは限りなく低く、われわれのすぐ手の届くところにある。ジャームッシュの感性のきらめきはそこにこそあるといわねばならない。
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監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:トム・ディロッチ
音楽:ジョン・ルーリー
出演:ジョン・ルーリー、エスター・バリント、リチャード・エドソン
1984年/西ドイツ・アメリカ/89分/白黒