人間島

literature
2010.07.01

二つ上の世代は上手に船を造った。一つ上の世代は船を上手に乗りこなした。しかし船はだんだん老朽化してきた。「ぼくらが島まで行ったら、この船は終わりだよ。」彼らは船を直そうとも、新しく作ろうともしなかった。彼らは言った。「子供たちは、船に乗ろうともしない。どうしてだろう?」

子供たちは、壊れかけの船にでも乗りたかった。だけど、船賃を持っていないのだった。ひとつ上の世代は船を乗りこなしたが、作る技術は持っていなかった。子供たちは、船を造ろうにも、資材がないので、泳いでいたのだった。

子供たちは、泳いでいるのか波にもまれているのか区別がつかなかった。一番下の船室で、「この船はもう沈むに決まってる、もうむずかしいことは考えないで、楽しく大騒ぎしていよう」という声がした。彼らは溺れている子供たちに向かって言った。「どうせ死ぬんだから、君たちと一緒さ。」

子供たちは考えた。二つ上の世代は船を造った。一つ上の世代は上手に船を乗りこなした。ぼくたちはどうしよう? ぼくたちには、なにができるのかな? リーダー格の少年が言った。ぼくたちは、泳いで海を渡るんだ。だから、泳ぐ力を身につけるんだよ。そうしたら、船が沈んでも、死なないで済む。

もう、船に乗ろうとする必要もなくなる。息ができなくなったら、まだ元気な仲間の背中で息をするんだ。仲間が疲れたら、今度は自分の背中を貸せばいい。そうやって少しずつ進むんだ。ほら、島が見えてきた。ここまできたら、もう手を借りる必要はない。ほんとだ。…島にたどり着いたら、どうする?

島にたどり着いたら、今度は新しい船を造るんだ。おじいさんたちのようにはうまくできないかもしれないけれど。そして溺れているひとたちを、助けにいこう。ぼくらの子供たちは、きっとぼくらと同じように泳いで海を渡るだろう。だけど、船を造り、乗りこなした大人たちは、泳ぐことができないのさ。

さあ、鳥が呼んでる。島はもうすぐだ。もう少しで、底に足がつく。返事はなかった。もうずいぶん前から、ひとりで泳いでいたのかもしれない。この島の名前を、ぼくは知っている。「知恵」というんだ。ずっと古い文献に書いてあった。だけど、誰も知らない新しい名前をつけよう。

ああ、島にはたくさんの子供たちがいる。よかった、ぼくはひとりになったんじゃなくて、一番後ろを泳いでいたんだ。さあ、もう一息。たどり着くまでに、島の名前を考えておこう。

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