B:そこでだ、君。君はどう思う? 価値、というものを信じるかい? A:価値ですか。 B:そうだ。たとえば、いま私たちの足元にある石ころ、この石に価値はあると思うかい? A:いえ……ありません。もし、これらの石が店でしかじ […]
A:歴史学は、真実に到達することが可能なのでしょうか? B:いきなり、どうしたんだい。そんな深刻そうな顔をして。歴史学が真実に到達するだって? 君、そんなこと考えていたのかい。 A:いけないですか。 B:そりゃそうさ。今 […]
言語論的転回linguistic turnについて、あまり理解されていない向きがあるようなので、この際、簡単に説明しておく。今日、歴史学にとっての言語論的転回の価値が、再び増してきているように感じられるから。 言語論的転 […]
何かを語ること、何かを書くことは、それがどのような内容であろうと、それについて肯定することを意味し、またそうであるがゆえに、同時に、語った内容とは別の何かについて沈黙すること、ないしは拒絶することを意味する。つまり、一言 […]
このところ、何かがおかしいと感じている。何かが決定的に足りないと感じている。――足りないのは「わたし」というよりも、「世界」である。さらにいえば、「世界」というよりも、「わたしの思考する世界」である。蛮勇をふるって、さら […]
19世紀初頭の歴史家、B.G.ニーブールは言っている。「歴史は明晰に周到に把握されるならば少なくとも一つの事柄に有用である。すなわちわれら人類の最大最高の精神といえども彼らの眼が見るための形式を如何に偶然に採用したかを知 […]
わたしの専攻はニーチェとおなじく古代ギリシア・ローマ史であるわけだが、「史」という言葉が定義上どのような範囲をもつにせよ、やることは決まっている。文献をひたすら読むことである。たしかに、“東洋”の端に位置するこの国にあっ […]
パックス・ロマーナ(pax Romana:ローマの平和)と呼ばれる時代がある。これはもちろん、近代の歴史家による造語ではない。同時代に語られていたものである。大プリニウスは言っている。 ローマの平和の計り知れぬ尊厳によっ […]
かつて、地中海には、系統不明の民族、“海の民”と呼ばれる人々がいた。エーゲ海に浮かぶ島々を利用することで補給を自在にし、アッシリアやエジプト、あるいはヒッタイトなどの国家的な支配に対抗していたのである。彼らの活動は、その […]
オスカー・ワイルドは言っている。「けっして起こらなかったことを正確に記述するのが、歴史家の仕事である」と。JLGの作品にも引用されていたこの言葉は、いかように解釈されるべきなのだろうか。 歴史家は、その探求の対象に、前期 […]
ニーチェ主義者だったマックス・ヴェーバーにとって、ドイツ歴史主義の時代の雰囲気のなかで活躍しながらも、また、その当の歴史主義こそは最大の敵でもあった。それゆえ、今世紀の半ばにポッパーによってなされた歴史主義への痛烈な批判 […]
「《歴史》とはなにか。」 この問い、ほとんど沈黙を意味するかにみえるこの問いこそが、カントを境界線として始まった近代人のもっとも憂慮すべき問題であったことは、答えを待たないだろう。近代は超克されたか? 歴史は終焉したのか […]
「地獄の時間としての「現代(モデルネ)」。この地獄の懲罰とは、いつでもこの一帯に存在している最新のことがらであり続けねばならないということだ」 「まさしく最新のものにおいて世界の様相がけっして変貌しないということであり、 […]
似ていることを云々することは、似ていないことを際立たせることであって、実際にはそちらの方が重要であり、それはヘーゲルが反面教師的に教えてくれたことでもある。似ている、と言うことは、似ていないと言うことに等しい。…… 歴史 […]
真実は、今、ここに瞬間的にしか存在しない。真実は、未来においては、希望として未規定の形に人々の心に残されたままであり、過去において真実は、運命あるいは歴史のなかに、人々の心に変形させられた記憶として、断片的に残されるのみ […]
「歴史とは解釈である」。よく聞かれる言葉である。もちろん歴史は(史料の)解釈である。自明ながら、理系文型を問わず、あらゆる学問は、ある事象の解釈でしかない。この意味においては、大きな「解釈」という概念のその一部(解釈(学 […]
歴史に取り組むことは答えのない難問に取り組むようなものである。真実は誰にもわからないか、あるいはどこにもない。ただ個々人によって変形させられた事実があるのみである。この「変形せられた事実」から、いかに多くの人々を納得させ […]
書くことが歴史なら解釈は是とされる。いや、書くこと自体が解釈することと同じである。……いかに僕が真実のみをただ提示しようという姿勢をもって歴史と接したところで、取捨選択の段階でそこに解釈が浸入する。当然、我々は歴史学が現 […]